ChatGPT事業継承 大工編 ノミとカンナの世界に、AIはどこまで入れるか?
はじめに:AIが“継承”に関わる時代が来た
「跡を継ぐ者がいない」
「技術はあるが、伝える手段がない」
「時間も金もない。でも、伝えたい」
これは、日本全国の大工職人たちが今、静かに抱える問題だ。
建築技能の世界は、まさに“技術の宝庫”。しかし、後継者不足や少子高齢化によって、そこに眠る知見や経験は、いまや“失われゆく文化財”のような存在になりつつある。
そんななか、意外なところから差し伸べられた一本の手がある。それが、ChatGPTをはじめとしたAI技術だ。
「え? 大工とAI? 水と油じゃない?」
そんな声が聞こえてきそうだ。
だが、本当にそうだろうか?
人間の感性がすべてを支配してきたはずの“ものづくりの現場”にも、今、ひっそりとAIが入り込みはじめている――しかも、“継承”という最も人間的なテーマの真ん中に、である。
職人技の継承とは、なにを継ぐことか?
まず立ち止まって考えてみたい。
「職人の技を継承する」とは、いったい何を継ぐことなのか?
- 手の動き?
- 使用する道具?
- 図面の読み方?
- 心構えや美意識?
どれも正解であり、不完全でもある。
なぜなら、“技”とは単なる動作ではなく、文脈と哲学を含んだ「生きた知識」だからだ。
例えば、ある木材を削るときの「力の入れ方」。
同じ道具、同じ木材でも、季節や湿度によって微妙に変える必要がある。
そこに明文化されたマニュアルはない。
これを「経験」で伝えるには、長い時間が必要だ。しかも、伝える側にとっては当たり前すぎて、言語化されていないことが多い。
――ここにこそ、AIの出番がある。
ChatGPTが担える“継承”の役割とは?
ChatGPTは「会話を通じて情報を引き出す」ことが得意だ。つまり、暗黙知(アンモクチ)を言語化する装置として機能する。
- 「なぜこの場面でこの道具を選んだのか?」
- 「どうしてこの寸法で止めるのか?」
- 「材料のどこを見て良し悪しを判断するのか?」
こうした質問に、職人が自然に話す内容を拾い、記録し、要約する。
そしてその会話ログは、以下のような形で“技術資産”として残せる:
- 自動的にナレッジベース(技術知識集)に変換
- 若手育成用のQ&Aマニュアルに変換
- 音声や動画から要点だけ抽出し、テキスト化
今まで「言葉にしづらいから教えづらい」とされてきた部分を、ChatGPTが言葉にしてくれる。
それはまるで、“無口な師匠の通訳”のような存在だ。
実例:ChatGPT×町工場が起こした奇跡
ある町の木工所では、70代の大工が引退を考えていた。弟子は1人。時間もなく、技術継承は諦めかけていた。
そこに地域のIT支援者が入り、ChatGPTとスマホで簡単な記録を始めた。
「今日はなぜこの木材を使ったんですか?」
「その角度はどうやって決めたんですか?」
スマホで録音されたやり取りは、ChatGPTが自動でテキスト化し、簡単な「作業日報」に変換された。
気がつくと半年で150本以上の「会話型マニュアル」が完成していた。弟子があとからそれを読み返すことで、理解が深まり、“ただの手順”ではなく“考え方”を継承することができたという。
ChatGPTが「大工見習い」になる未来
少し突飛な話をしよう。
将来、ChatGPTが「仮想の見習い大工」になる未来が来るかもしれない。
ベテラン大工がひとり言のように語る。
「この板は鳴くなぁ。もうちょい乾かしといた方がいい」
「昔はクサビなんか、山で拾った木で作ったんだ」
そんな言葉を、AIが聞き取り、記憶し、文脈ごと保存していく。
しかも、AIは一切忘れない。
しかも、どんな時間でも復習に付き合う。
しかも、あらゆる過去のやり取りを横断的に検索できる。
つまり、「聞き逃し」「教え忘れ」がなくなる。
これは、伝統的な継承においては革命的な話だ。
「AIではできない」ことを、逆に言語化する
面白いのは、AIに任せてみることで、
「逆にAIではできない部分が明確になる」という点だ。
たとえば…
- 木の香りで判断する湿度
- 手の感触でわかる繊維の流れ
- 作業空間での“間”の取り方
こういった要素は、現時点のAIでは再現できない。
しかし、だからこそ、「ここは人間じゃないとダメだよね」という部分が、はっきり言葉になる。
このプロセスは、継承における“見えない核心”を可視化する作業でもある。
「事業継承」から「思想継承」へ
ChatGPTができるのは、手段の継承だけではない。
もっと深い部分――職人の哲学や思想さえも、継承の対象になる。
ある職人がこう語った。
「木は、削るんじゃなくて、導いてやるもの」
この言葉だけでは伝わらない。
けれど、ChatGPTはその文脈を質問し、語り、広げていくことができる。
「なぜそう思ったんですか?」
「若い頃は、どう違っていたんですか?」
そうやって生まれた会話ログは、もはやマニュアルではなく、ひとつの“物語”になる。
これは、技術の継承から、思想の継承への進化だ。
誰がAI継承を設計するのか?
ここで注意すべき点がひとつある。
AIによる技術継承は、放っておいて勝手に進むわけではない。
必要なのは、
- 適切な「質問設計」
- 会話の「目的整理」
- 膨大なデータを整理・構造化するスキル
つまり、AIが“何を、どう引き出すか”をデザインできる人材が必要なのだ。
ここに新たな職業が生まれる予感すらある。
それは「AIナレッジ設計士」や「AI職人継承デザイナー」といった肩書かもしれない。
今後、このような役割を担える人材こそが、伝統とテクノロジーの橋渡し役になるだろう。
最後に:大工とAIの奇妙な共存
「木を見て森を見ず」とはよく言うが、今は違う。
木も、森も、そしてデータも見る時代が来たのだ。
ChatGPTのような生成AIは、冷たいコンピュータの塊ではない。
正しく使えば、人の想いを汲み上げ、未来へ伝える“記録者”になり得る。
それはまるで、大工が木に語りかけるように、AIと語ることで技術と思想が未来に繋がっていく。
そしていつか、誰かがこう言う日が来るかもしれない。
「うちの棟梁はさ、AIにも弟子がいたんだよ」
それは、未来の継承のかたち。
ノミとカンナの隣に、ChatGPTがそっと置かれている世界。
決して派手ではないが、確かに未来に繋がる物語だ。