ChatGPTで「社員の強み診断」を実施してみた話 AIが見抜く、“人材の宝”の掘り起こし術とは

はじめに:「この人、もっと活かせる場所があるのでは?」

「なんでこの人にこの業務を任せていたんだろう」
「本当は、もっと違う場面で輝けるんじゃないか?」

企業やチームを率いる立場にいると、ふとこんなことを思う場面がある。
部下や同僚、あるいは自分自身ですら、「強み」を正確に言語化できないまま、なんとなく与えられた役割をこなしていることが多いのだ。

そんな中、「ChatGPTで社員の強み診断ができるらしい」という話を耳にした。
いや正確には、「やってみたらすごく面白かった」という話だ。

そこで本稿では、AIを活用して人材の「強み」を見つけ出すプロセスと、その裏にある思考、意外な発見、そして人間とAIの“新しい関係性”について、深掘りしてみたい。

「強み」はどこに隠れているのか?

そもそも「強み」とは何か?

多くの場合、強みは「成果」や「スキル」と結びつけて考えられる。
営業成績が高い → 営業力が強い
数字に強い → 論理的思考力がある

だが、本質的な強みとは「自然にできてしまうこと」や「無意識にやってしまう行動特性」の中にある。

この“無意識の得意”は、本人にも見えていないことが多い。
だからこそ、人間のバイアスを持たないAIの視点が効いてくる。

ChatGPTに社員の「行動ログ」を読ませてみた

今回の実験では、以下のような情報をChatGPTに与えてみた。

  • ある社員の1か月分の業務報告(日報)
  • Slackでの発言履歴(プロジェクト関連に限定)
  • 自己紹介文や社内自己評価レポート

これらは単なる「テキストデータ」だが、ChatGPTにとっては宝の山である。
なぜなら、AIはここから文脈・言語パターン・視点のクセ・反復行動を読み取ることができるからだ。

ChatGPTが導き出した“強みの構造”

驚いたのは、ChatGPTのアウトプットの“深さ”だった。

たとえば、ある社員Aに対してこんな診断が出た。

  • 「関係調整能力」:複数の利害関係者の視点を調和させる発言が多く、対立を回避しながら合意形成を図る傾向が見られます。
  • 「メタ認知力」:自身の行動に対して客観的な言及が多く、状況を俯瞰する視点を持っていることが分かります。
  • 「言語の構造化能力」:複雑な業務フローを簡潔に要約し、他者への伝達力が高い傾向にあります。

人事評価とはまったく異なる切り口で、人間では見落としがちな“行動のニュアンス”に着目している。

しかもこれらの診断には、すべて根拠となる文脈の引用が添えられていた。
「〇月〇日の日報で『〇〇という表現』をしている」
「Slackのこのやり取りでは××という調整行動があった」など。

つまり、ChatGPTはただの“感覚診断”ではなく、言語的・構造的根拠に基づいた強みの可視化をしていたのだ。

強み診断は“感情的な再発見”でもあった

もうひとつ、意外な副産物があった。
それは、診断を受けた社員たちが少し誇らしげな顔をしていたことだ。

人間は、第三者から「強みを言語化される」と嬉しい。
とくに、数字やKPIには現れない部分を評価されたときの喜びは大きい。

ある社員はこう言った。
「自分では当たり前だと思ってたけど、それが“強み”だって言われると自信になりますね」

人間は、評価されること以上に、“自分を理解された”という感覚に癒されるのだ。

ChatGPTは「人事部の補助脳」になるか?

では、このようなAIによる強み診断は、実際にビジネス現場でどう活用できるのか?

いくつかの応用例を紹介しよう。

  • ① 配属・異動の参考材料に:
    ChatGPTの診断を人事資料と併せて見ることで、より立体的な配属判断が可能になる。
  • ② 昇進・評価の補助材料に:
    「定量的評価が難しいけど、重要な役割を果たしている人」を浮かび上がらせるのに効果的。
  • ③ チーム編成時のバランスチェックに:
    強みタイプを把握することで、思考の多様性を担保したチーム編成ができる。

「診断項目」はどう設計したのか?

今回の診断では、事前に診断の軸(評価観点)を設計しておいた。

以下はその一例である:

  • 情報整理力
  • 自律性
  • 協調性
  • 主体性
  • 他者支援力
  • 構造化能力
  • 改善志向
  • 感情知能(EQ)

これらをChatGPTに伝え、「この観点で観察して」と指示することで、アウトプットがブレずに済んだ。

ここでのポイントは、「性格診断」ではなく“行動特性ベース”の強み評価にすること。
それによって、抽象的な印象論ではなく、実務で役立つ具体的な資質が浮かび上がる。

ChatGPT診断は「脅威」ではなく「補完」

一部には、こうしたAI活用を「人間の評価力を奪うもの」として警戒する声もある。
だが実際には、ChatGPTは人間の“思考の穴”を埋める存在でしかない。

感情的なバイアス、固定観念、思い込み――
人間の評価には常に“ノイズ”が混ざる。

そのノイズを「AIという他者」が丁寧にフィルタリングしてくれることで、より公平で深い人材理解が可能になる。

むしろ、人間が苦手な「言語のパターン化」や「文脈のトレース」をAIに任せることで、人事担当者は“人間らしい評価”に集中できるのだ。

実験から見えた「未来の組織づくり」

ChatGPTで強み診断を行ったこの実験は、単なる分析にとどまらなかった。
それは、組織を“再構築”するための思考実験でもあった。

AIは「何ができるか」だけでなく、
人間に「何を残すべきか」を教えてくれる。

人を見る、伸ばす、理解する――
その営みの中で、ChatGPTは確かに“伴走者”としての資質を見せた。

そして今、評価されなかった誰かが、
AIの言葉で“自分の可能性”に出会っている。

おわりに:強みとは“掘り起こすもの”

強みは「持っているかどうか」ではなく、「見つけられるかどうか」で決まる。
そしてその発掘作業に、AIというツールがとてつもない力を発揮し始めている。

ChatGPTが全てを判断するわけではない。
だが、「こんな見方もあるよ」と差し出されたその視点が、
ある社員の、あるチームの、そしてある組織の“未来の兆し”になるかもしれない。

強みは、磨く前に見つけるもの。
そして今、その「発見者」にAIが加わった──
そんな時代のはじまりを、静かに感じた実験だった。