介護施設がChatGPTを導入して業務がラクに “言葉”が支える現場のAI革命

「介護の現場にAI?」という違和感の正体

「介護」と聞いて、皆さんはどんな風景を思い浮かべるでしょうか。
高齢者の手を取り、笑顔で話しかけ、身の回りの世話をする温かなスタッフ。
その光景の中に、人工知能(AI)が入り込むイメージは、なかなか湧きづらいかもしれません。

しかし実は今、全国の介護施設の一部で、AI、特に自然言語処理の分野で進化を遂げた「ChatGPT」が、静かに、しかし着実に業務をサポートし始めています。

「ChatGPTが介護?」と思った方ほど、この記事を読んでいただきたい。
単なる自動化ツールではなく、言葉の“理解者”としてAIが果たす役割が、介護の世界でどれほど革新的か、少し深掘りしてみましょう。

介護施設の「本当にきついところ」は、どこか

介護という仕事は、感情労働(※1)・身体労働・事務労働の“トリプルワーク”といわれます。
中でも近年問題視されているのが、記録業務と情報共有の負担です。

(※1)感情労働とは
感情労働とは、感情をコントロールしながら行うサービス業特有の仕事で、たとえば笑顔での接客や、怒りを抑えて対応するなど、精神的なコストが高い労働形態のこと。

日々の業務ではこんなことが求められます:

  • 利用者ごとの状態記録(日誌)
  • ケアプラン作成やモニタリング
  • 看護・介護職間の引き継ぎ
  • 家族への報告書作成
  • 行政への提出書類
  • 急な変更への対応と共有

これらはすべて「言葉」による業務です。手書き、パソコン入力、口頭での説明……。
つまり、「文章化」と「情報の翻訳」が、介護現場の大きな負担になっているのです。

ChatGPTの導入で“見えない仕事”が見える化された

ここで登場するのが、OpenAIが開発したChatGPTです。
ChatGPTは、単なるチャットボットではありません。人の文章や会話を「理解」し、「応答」し、「要約」し、「書き換え」までできる、いわば文章の職人AI。

では、実際に介護施設ではどのように活用されているのでしょうか。

1. 介護記録の自動生成

たとえば、現場スタッフがスマホに「今日、○○さんは昼食を完食。午後はテレビ鑑賞を楽しみ、15時に排泄介助」と音声入力するだけで、ChatGPTがそれを日誌風に整えてくれます。

Before:
昼食完食。テレビ見ていた。15時排泄あり。

After(ChatGPT生成):
○○様は本日、昼食を完食されました。午後はテレビ鑑賞を楽しまれ、15時には排泄介助を行いました。表情も穏やかで、落ち着いて過ごされていました。

ほんのわずかな操作で、専門用語に準じた、読みやすい記録文が完成します。

2. 報告書・引き継ぎ文の下書き作成

看護師や管理者が家族やケアマネジャーに提出する報告書の作成も、ChatGPTが下書きを行うことで大幅に負担軽減。

  • ChatGPTが「報告対象者・期間・観察内容・変化点」をもとにドラフトを作成
  • 担当者が加筆修正で完成

手間が減るだけでなく、「伝え忘れ」「表現の曖昧さ」を防ぐ効果も期待されています。

3. 新人教育・FAQ作成

ChatGPTに過去のマニュアルやQ&Aを学習させることで、新人職員がわからないことを自然言語で質問できる「AI教育担当者」として活用可能です。

「バルーンカテーテルの処理って、どうやってやるんだっけ?」

と聞けば、

「まずは手袋を着用し、クランプの位置を確認してから……」

と返ってくる。マニュアル探しの手間も省け、現場での“即戦力化”が早まります。

なぜ「ChatGPT」なのか? ― 他のAIとの違い

  • 「言葉を使えるAI」であること
    介護業務のかなりの部分が“会話”と“文章”で構成されている以上、「言語がわかるAI」でなければ意味がありません。
    ChatGPTは、質問にも雑談にも、文書作成にも対応できるオールラウンダーです。
  • 専門知識がなくても扱える
    ChatGPTは、専門ソフト不要・ノーコード(※2)で利用可能。
    PCやタブレットにログインして、話しかけるだけ。ITが苦手なスタッフでも、直感的に使えます。
  • (※2)ノーコードとは
    プログラミングを一切せずに、ソフトウェアやアプリケーションを使ったり開発したりできる技術のこと。一般ユーザーにも扱いやすいのが特長。
  • 言葉の“曖昧さ”を理解する柔軟さ
    介護現場でよくある、「あの人、今日ちょっと元気ないね」「昼ごはん、半分ぐらい残してたかも」――こうした曖昧な表現にも、ChatGPTは驚くほど柔軟に対応できます。

AIの中でも、ChatGPTは“文脈理解”が強いことで知られており、「なんとなく」や「それっぽい」を扱えるのが最大の武器なのです。

「人の手が減る」のではなく、「人がラクになる」

ここで誤解してほしくないのは、「AIを入れたから人員を減らせる」という発想ではないということです。
ChatGPTの導入によって得られるのは、心身の余白です。

記録業務にかかる時間が1日30分減るだけでも、その分のエネルギーを利用者との会話やケアの質向上にまわせます。
つまり、人間にしかできない仕事に集中できるというわけです。

導入の課題と、未来への布石

  • 個人情報の扱い
  • インターネット接続環境
  • 現場スタッフの抵抗感
  • 管理職の理解不足

しかし、これらはすべて「AIだから」というよりは、「新しい道具だから」生まれるごく自然な懸念です。

今後は「施設内クローズドGPT」のようなセキュアな運用や、介護業界専用のテンプレート整備なども進んでいくでしょう。

AIは冷たいのではない。むしろ“言葉の共感者”である

介護というのは、心の機微を読み取る仕事です。
ChatGPTがそれを奪うことはありません。むしろ、職員が本当に伝えたいことを“言語化”する手助けをしてくれる存在なのです。

言葉は、伝えるだけではなく、「気づかせる」力も持っています。
ChatGPTは、そうした言葉の力を、現場にそっと返してくれるツールなのかもしれません。

おわりに:未来の介護は、“AIで温かくなる”かもしれない

「介護にAIなんて無機質すぎる」
そんな声があっても不思議ではありません。

でももし、言葉の行き違いや書類のストレスが減って、職員が笑顔で仕事できるようになったら。
それは、確実に利用者に伝わる“あたたかさ”として還元されるはずです。

ChatGPTは、介護を変える魔法の杖ではありません。
けれど、「ラクにする道具」にはなれる。
それが、“これからの介護”の選択肢のひとつになる時代が、すぐそこまで来ているのです。