■「営業トーク」は属人芸なのか？

営業といえば、優秀な営業マンが顧客の懐にスッと入り込み、うなずきと共感を引き出しながら自然にクロージングへと誘導していく──。そんな“話術”の世界というイメージがいまだ根強い。

では、営業トークは職人技なのか？ 経験やセンスがモノを言う、再現性のない芸なのか？

この問いに対して、AI──とくにChatGPTのような大規模言語モデル（LLM）が、いま異なる角度から光を当てようとしている。

そして実際に、「AIに営業トークを考えさせたら、成約率が変わった」と語る現場の声が、各業界で静かに増えつつある。

これは「営業職がAIに奪われる」という話ではない。
むしろ逆だ。
“営業マンとAIの協働”によって、営業の在り方そのものが進化し始めている──そんな話だ。

■ChatGPTに営業スクリプトを考えさせるとはどういうことか

営業トークのスクリプトとは、顧客との対話の中で使う「言葉の設計図」だ。商品の紹介、相手の課題に共感する言い回し、ニーズを引き出す質問、最後のクロージングまで、一つのシナリオのように構成されている。

従来、これを作るのは営業のプロの仕事だった。

しかし、ChatGPTの登場により、プロでなくてもそれを「生成」できるようになった。しかも、顧客層や商品特性に合わせて何パターンも用意することが可能になった。

例えばこんな指示だ。

「法人向けSaaS商材を販売する際の営業スクリプトを作ってください。対象は従業員50名以下のIT企業で、担当者は導入決定権を持つマネージャークラスです。」

このように指示することで、ChatGPTは論理的かつ自然な会話の流れを構築してくれる。

さらに、会話の途中で顧客が懸念を示した場合の“返し”までシミュレーションしてくれる。

しかもこのスクリプトは、24時間いつでも、何百通りでも出力可能だ。

■実際に成約率が変わったケース

ある中小企業の営業部門では、ChatGPTに以下のようなタスクを与えた。

• 過去の成約データをもとに、成功した営業トークの共通点を抽出
• 顧客属性（業種・規模・担当者の役職）に合わせてトークを微調整
• 初回訪問時とクロージング時の話法を別々に生成

その結果どうなったか。

従来の成約率が28％だったところ、ChatGPTで作成したスクリプトを活用したチームは、40％を超える成果を出したのだ。

もちろん、すべてがAIのおかげというわけではない。だが、少なくとも以下の2点で大きな変化があったという。

• 「言葉に迷う時間」が激減した
• 新人営業でも“経験者っぽい”トークができるようになった

営業の現場では、「何を言えばいいのかわからない」という迷いが、信頼の損失につながる。そこに“言葉のガイド”があるだけで、会話の質が一段上がる。

■ChatGPTにできて、人間にできないこと

• 100通りの言い回しを即時生成
• あらゆる業界・職種の専門トークに変換
• 相手の“懸念ワード”に対する最適解を瞬時に提案
• 声のトーンや心理的効果を考慮した文体の最適化

例えば、「導入コストが高い」という懸念に対して、「コストではなく、5年後の業務効率を見たときの“実質コスト”に注目してください」という返しを、ChatGPTは複数のトーンで生成できる。

これは人間には難しい芸当だ。特にストレスのかかる状況や、初対面の相手との対話では、言葉を選ぶ余裕がなくなる。そんなとき、ChatGPTの“多様な表現提案”は大きな支えとなる。

■「セールスの型」は、AIによって体系化されつつある

営業はかつて「属人性の塊」とされてきた。だが今、ChatGPTによって「型」が見える化され、再現可能な知識へと変わりつつある。

• 相手のタイプ別に響くキーワード
• 業界ごとに好まれる話の順序
• 担当者の立場（導入決定権の有無）に応じたアプローチの変化

こうした知識は、かつて経験と失敗から学ぶしかなかった。
しかし今では、ChatGPTに尋ねることで瞬時に仮説を立てることができる。

例えば、

• 「物流業界の経営者が一番気にするポイントは？」
• 「医療関係者がAI導入を嫌がる理由は？」
• 「製造業で“人手不足”をキーワードにして売る方法は？」

──こうした問いに、ChatGPTは事例とロジックを交えて回答してくれる。

つまり営業における「勘と経験」を知識として再現・共有できるようになったのである。

■ChatGPTは“冷静なもう一人の自分”

営業現場では、焦りや緊張によって、せっかくのチャンスを逃してしまうことがある。
ChatGPTは、そんな時に冷静で、論理的で、そして絶対に疲れない“もう一人の自分”になってくれる。

たとえ深夜2時でも、翌日の重要なプレゼン前でも、ChatGPTは怒らず黙らず付き合ってくれる。

• 「この商品、どう紹介したら刺さる？」
• 「この質問にうまく返せる切り返し、ない？」
• 「“予算が厳しい”と言われたときの、角が立たない返事は？」

こうした問いに、真面目に、誠実に、そして無限の引き出しから答えてくれる存在──。

営業職にとってChatGPTは、すでに「頼れる相棒」になってきている。

■そして、AIと営業の“未来の話”をしよう

今はまだ、「ChatGPTに考えさせた営業トークを人間が使う」という段階にある。
だが、いずれ「ChatGPTが直接顧客と会話する」時代が来るのは、ほぼ間違いない。

現に、ChatGPTを用いた自動応答営業システム（ボイスボット・チャットボット）はすでに実用段階に入っている。
2024年には、海外で「全営業の初回ヒアリングをAIが担当する」企業も登場した。

つまり、営業活動は今後、「人間だけの仕事」ではなくなる。
そして、それは脅威ではなく進化なのだ。

AIと人間が協働することによって、営業の質はより高まり、顧客体験もより洗練されていく。

• 「話し上手じゃなくても、成果が出る」
• 「経験がなくても、学習して補える」
• 「すべての顧客に、最適な言葉を届けられる」

そんな未来が、確実に近づいてきている。

■結論：ChatGPTは“セールストーク”を民主化した

営業とは「言葉で信頼を生み、行動を促す」行為だ。
その言葉を、誰もが扱えるようにしたのがChatGPTだ。

• 営業初心者でも、自信を持って顧客と対話できる
• 営業ベテランでも、新しい切り口を得られる
• 忙しい経営者でも、最短ルートでスクリプトが作れる

成約率が変わったのは、魔法ではない。
ChatGPTという“言語のパートナー”がいたからだ。

いま、営業という仕事は「言葉を考える」ステージから、「言葉を活かす」ステージへと進もうとしている。

そしてその先には、営業における“本当の創造性”が、初めて問われる時代が待っているのかもしれない。