美容室がChatGPTで「顧客メモ」を強化する時代

髪を切る前に、記憶を呼び出せる美容師は最強だ

「この前のカラー、もう少し明るめが良かったんです」
「前回のカット、持ちがよかったですね！」
こうした何気ない会話が、美容室のリピーターづくりの要（かなめ）になっていることは言うまでもありません。

しかし、顧客数が100人、200人と増えていく中で、すべての会話を記憶するのは至難の業です。カルテを見返しても、「ショートボブ＋アッシュブラウン」と書かれているだけでは、ニュアンスや表情までは蘇りません。

ところが、ここに登場したのが「ChatGPT」。そう、あの対話型AIです。単なるメモではなく、“会話の記憶”をAIが再現する──そんな時代が、すでに美容室の現場で静かに始まりつつあります。

美容業界では昔から「カルテ」が活用されてきました。顧客の名前、施術履歴、アレルギーの有無、好みのスタイル、時には恋愛事情まで……美容師は「髪のドクター」であると同時に、「会話のセラピスト」でもあります。

ところがこのカルテ、情報の蓄積が進めば進むほど「読み返すコスト」が増大していくというジレンマがあります。

こうした課題を、「ChatGPT」が一気に変えようとしているのです。

ChatGPTの本領は、テキストデータの要約、再構成、文脈の理解にあります。これは単なる記録ではなく、「記憶の再現」に近いのです。

美容師が施術後に、顧客とのやりとりをChatGPTにざっくばらんに話すだけで──

「今日の◯◯さん、また彼氏さんの話してた。前回と同じカラーだけど、次回は少し明るくしたいって。あと、前髪もう少し短くてもいいかもって言ってた」

このような雑多なメモを、ChatGPTはこう変換します：

【顧客メモ（ChatGPT生成）】

このように要点が整理され、しかも文脈付きで保存される。さらに、日付を指定すれば「3回分の流れ」を要約したり、「この顧客に共通するキーワード」を抽出することも可能です。

美容室における“記憶力”の差は、指名率に直結します。そして指名率はそのまま、売上やキャリア形成の鍵を握ります。

にもかかわらず、顧客メモの記録・管理は属人的で、時間がかかる、面倒くさい、そもそも後回しになりがちです。

ここにAIを導入することで、次のようなメリットが生まれます：

「感情の記録」が可能になる
ChatGPTは「楽しそうだった」「少し疲れていた」などのトーンも含めて記録できます。これが再来店時のトークに大きな差を生みます。
施術だけでなく“人間関係”も資産化できる
AIは、雑談から得られる情報（子どもの学校、旅行予定、イベントなど）も丁寧に蓄積できます。それを活用することで「また話したくなる美容師」になれるのです。
忙しい中でも、記録の手間が大幅に減る
「話すだけ」でChatGPTがメモをまとめてくれるなら、営業後にパソコンと格闘する必要もありません。

ある地方都市の美容室では、オーナーがChatGPTを「番頭（ばんとう）」と呼んで活用しています。
──番頭とは、江戸時代の商家において帳簿を管理し、商人の補佐をする実務の責任者。

その美容室では、施術後に「今日はどんな話をしたか」「お客様の反応はどうだったか」を音声メモにして、それをChatGPTでテキスト化・要約・保存しています。

この“番頭GPT”は、次回来店時に次のような提案をしてくれます：

「◯◯さんは来月、娘さんの入学式があると言っていたので、上品なカラー提案を考えておきましょうか」

もはや、ただのAIではなく「記憶と提案の参謀」と化しているのです。

もちろん、AI導入には注意すべき点もあります。

セキュリティとプライバシーの問題
顧客情報をAIに扱わせる以上、クラウド保存やデータ漏洩には十分な配慮が必要です。特にOpenAIのChatGPTなどはデフォルトでクラウド上に処理されるため、個人情報の伏字化や抽象化を挟むなどの工夫が求められます。
会話のニュアンスは万能ではない
ChatGPTは“話し相手”としては優秀ですが、完璧ではありません。特に関西弁や独特な口癖、文脈が複雑な雑談は、文意を取り違えることもあります。補助ツールとして活用する視点が重要です。
美容師の「観察眼」はAIにはできない
肌の調子、髪の質感、施術中の細かな反応──こうした“視覚的情報”は、まだまだ人間の領域です。AIは“補佐役”であって、“主役”ではありません。